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大津一貴のエンジョイフットボールライフ『海外TVで放送事故!?』

19・02・11
 北のサッカーアンビシャスをご覧の皆さま、こんにちは。3回目の登場となります大津です。今回は、私が海外生活1年目の2015年、モンゴルで体験したピッチ外でのエピソードをご紹介したいと思います。

 海外生活1年目の秋、モンゴルのテレビ放送局(全国放送)のニュース番組内で、国内サッカーリーグの特集コーナーが組まれていました。ちょうどその時期は、リーグ戦終盤の時期で、私が所属していたFCウランバートルと、国内強豪クラブのエルチムが、週末に1位2位の直接対決を控えていました。当時は、サッカーの注目度が正直高いとは言えないモンゴル国内でも、メディアの注目を集めている状況でした。

 番組内容は、モンゴルサッカーリーグの紹介から始まり、週末の天王山『FCウランバートルVSエルチム』の話題がメインです。そこで、両チームから一人ずつ外国人選手をスタジオに呼び、インタビューと、さらにスタジオ内でリフティングの技も披露することも組み込まれていました。その番組に、私はほぼ何の情報も無く出演してしまうことに・・・。

 もし、読者の皆さまが外国人選手の立場でテレビ放送に出演するとなった場合、上記のような説明を事前に受けていれば、放送当日に何があるのか、おおまかには想像が付くと思います。

 では、ここからが今回のエピソードです。放送前日の夜、チームのマネージャーから急に「取材があるから、朝8時までに○○の横のビルに行ってね」とメッセージが届きました。私への連絡は以上の一文のみです(笑)。

 「取材って雑誌?テレビ?インターネット?そもそも何語で取材?日本語しか分からないよー!?」と、一人不安になり、マネージャーに折り返すも返信は無し。その日は夜も遅くなってしまいましたので、とりあえず、今出来ることは寝ることだと切り替え就寝。

 翌朝、真面目な私は指定された通りの時間と場所に向かいました(日本人の時間の正確さ、真面目さが評価される部分でもありますし)。しかし、朝が早いせいか誰も居ません。海外あるあるでしょうか?

 それから20分くらい待っていると、道路の向こうから知っている顔の外国人が歩いてきます。週末に対戦する相手チームのエルチムに所属するセルビア人選手でした。そこで私は、つたない英語で彼に尋ねました(なぜか伝わる“出川イングリッシュ”ならぬ“大津イングリッシュ”で)

 「今日はいったい何があるの?」

 「今日はテレビ放送があるらしいぞ。それでお前もここに来たんだろ?」

 つたない英語を聞き取ってくれたセルビア人選手には感謝です。そして、「とにかく今日の取材はテレビなんだ!」ということだけは、しっかり理解することが出来ました。

 更に待つこと30分、モンゴルサッカー協会の関係者であり、番組内での通訳(もちろん英語)をしてくれる顔馴染みの方が到着。最初に指定された時間より50分が経ったところで、ようやくテレビ局へ行くことになりました(これもアウエーの洗礼)。ちなみに、この時点では生放送であることを、私はまだ把握しておりません。それどころか、英語でインタビューされるとも思っていませんでした。

 放送スタジオ脇の控え室に入り、ピンマイクをセットされ、色々と打ち合わせが始まります。打ち合わせ中、私の視界に入ってくる番組の様子が、明らかに録画ではなく、生放送であることをやっと察しました。担当ディレクターの綺麗な女の人に、そのスタジオの方向を指しながら、恐る恐る尋ねました。

 「ミー、これに出るの?」

 「もちろん!あなたにはモンゴル語ではなく、英語でインタビューするから安心して!」

 この瞬間、やっと事態を把握しました。

 「自分はあと10分後に、モンゴルのテレビ放送に生出演する。しかも英語でインタビューされる…。やべぇ、英語出来ない…。どうしよーーー!!!オーノー」

 日本でプロ経験の無かった私は、テレビの取材などは受けたことがなく、ピンマイクをセットされただけでも緊張していましたが、生放送と知って緊張はMAX。更に英語でのインタビューということで、放送が始まる前からパニック状態です。いま思い返しても、どんな試合よりも緊張しました。

 この状況から逃げられる訳でもなく放送開始時間となり、番組司会者、セルビア人選手、大津、通訳兼モンゴルサッカー協会関係者の4人で番組が始まりました。ここからは、緊張が極限まで達し、記憶が所々抜けておりますので、覚えていることだけをお伝えします(ブルブル)。

 まずは、モンゴルのサッカーリーグの紹介からスタート。その話では、サッカー協会の方がインタビューを受けただけで、私は黙ってニコニコしているだけで大丈夫でした。次に、メインの週末の試合の話になりました。まずは、セルビア人選手が英語でインタビューを受けました。その瞬間、「絶対に次は自分に出番が来る流れだ!」と思うと、頭の中が真っ白に・・・(ある意味北海道あるあるのホワイトアウトです)。

 予想通り、次は私の出番です。「日本とモンゴルのサッカーのレベルを比べてみてどうですか?」という内容の質問を受けました。私は頭の中で「日本のサッカーの方が全体的なレベルは高い。だけど、モンゴル人選手の個人のポテンシャルは高いものを秘めている」という主旨のことを伝えようと思いました。しかし、元々英語レベルが低い上に、緊張のせいで更に英語が出てきません。

 その結果、私から出たのは、右手を高く上げて「This is Japan」、少し左手を低くして「This is Mongolia」と、サッカーレベルを表現することに・・・。そして、「モンゴル人選手のポテンシャルが良いモノを秘めていることは伝えたい!だけど、英語が出てこない!どうしよう〜」と追い込まれた状況で出てきた言葉が「モンゴリア ストロングぅ〜、グー、グー、グーぅ」という芸人エド・は〇みさんのような単語とジェスチャー。結局「モンゴル、強いー」とスベルだけになりました。

 そしてさらに私のワンマンプレー(放送事故)は続きます。インタビューの後、選手それぞれリフティングを披露することになりました(これも、この場で初めて知りました)。

 しかもこのリフティング披露は、私からスタート! 本来は、得意分野であり、喋らなくても良いので普通にできるはずですが、先ほどの「モンゴリア ストロングぅ〜」と発した直後なので、心臓のバクバクは全く収まっていない状況です。リフティング自体はなんとかできたのですが、頭の後ろ首元辺りにボールを乗せる技を披露したところ、見事に失敗!(言い訳をすると普段は絶対にミスしない技なんです!)まだ笑ってくれれば助けられたのですが、スタジオ内は音声も無く信じられない程にシーン・・・。ボールが床に落ちる音だけが無常に鳴り響きました(涙)。

 以上が、私が異国の地で巻き起こしたスベリ事故の全貌です。海外生活では、この経験をはじめ、様々な場面で“言葉の重要性”を身に染みて感じました。そして、言葉を覚えることは、海外で活躍するためにはとても重要な要素です。しかし、もっと重要なのは伝えようとする姿勢だと、私は考えます(それが出川イングリッシュですね)。

 この放送の時も、困り果てて謎の回答をしましたが、通訳をしてくれた方は、私の表情やジェスチャーから意図をくみ取って、何とかモンゴル語に訳してくれました。もし私が逆の立場になった時は、番組で助けてくれた通訳の方のように、温かい気持ちで何でも聞き入れてあげたいと思う次第です。そして、今は少し英語が上達したので、生放送のリベンジも果たしたいと密かに狙っています(でも、やっぱり試合より緊張しそうだなぁ)。

 上写真/当時のTV生放送時の画像。右から2人目が緊張して表情が硬い大津選手。この後、無音の放送事故状態を巻き起こすことに・・・


◆大津一貴プロフィル◆
少年時代は、札幌山の手サッカー少年団とSSSサクセスコースに所属。中学校時代はSSS札幌ジュニアユース。青森山田高校から関東学院大学へ。卒業後は一般企業へ就職。2013−2014年は、T.F.S.C(東京都リーグ)。2015年FCウランバートル(モンゴル)。2016年スリーキングスユナイテッド(ニュージーランド)。2017年カンペーンペットFC(タイ)、2018年はFCウランバートル(モンゴル)でプレーし、優秀外国人選手ベスト10に選出された。

大津 一貴