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ヨーロッパサッカー回廊『ドイツ危機:50+1ルール』

18・10・22
 9月から始まった「ヨーロッパ国別対抗戦」(UNL)は、10月11日から16日の間、第2ラウンドに入り、思わぬ結果が出ている。

 Aグループのドイツは、9月に行われた初戦、ロシアW杯覇者のフランスに0−0の引き分け。2戦目の対オランダ戦(10月13日)でどのような結果を出すのか注目されたが、ロシアW杯に出場出来なかったオランダに0−3と完敗、ドイツはロシア大会以来3試合勝利無しとなっていた。

 そして16日にアウエーでフランスとの対戦、結果は1−2の敗退。4試合勝利無しが続いている。あと1試合を残し、勝ち点1。トップのフランスの勝点7、オランダの勝点3に続き最下位となってしまった。次の最終戦オランダに勝てなければ来年度リーグBへ転落し、2020年のユーロへの道も険しくなる。

 6、7月のロシアW杯でも優勝候補の一角と評されていたが、予選F組で初戦メキシコに0−1と敗退。スウェーデンには2−1と辛勝したが、FIFAランク57位(W杯時点)の韓国に、番狂わせの0−2と敗退し、ベスト16さえ突破はできず、1938年以来の予選敗退という屈辱を味わったドイツ。

 わずか2か月で『常勝ドイツ、負けないドイツ』の名称が変わってしまった理由は何であろうか。名将と言われたレーブ監督の手腕が衰えたのか、それとも新しい選手が出てこなくなり、相変わらずベテラン、ミューラーに頼っている時代遅れのチームとなってしまったのか。

 W杯直前の6月、トルコからの3世代目移民である代表選手のエジル(アーセナル)とギュンドアン(マンチェスター・シティ)が、現トルコ大統領エルドアンの英国訪問時に表敬訪問した際の写真がメディアに流れ、ドイツでは国を代表する選手としてふさわしくないと非難がこの2人に集中した。その結果の予選敗退であり、その後もスケープゴートとして2人がドイツ敗退の張本人のレッテルを貼られてしまった。

 エジルは「勝てばドイツ人、負ければ移民と言われるのは不本意」としてドイツ代表を引退、ドイツの攻撃的MFを失ってしまった。不屈のドイツ魂も多くの移民選手の台頭で薄れてしまったのも事実であろう。アフリカ系移民のボアテング、リュディガー、サネ、アルバニア系のムスタフィなどの移民代表選手に依存し、今後もその移民選手が増えることは必至であろう。

 更に、有望新人もMシティ在籍のサネくらいで、世代交代がうまく行っていないのも事実である。

 ハリー・ケーン(25歳)、GKピックフォード(24歳)、ウインクス(22歳)などのU−25の選手が主力となっているイングランド。今やペレを超えるとも言われているエムバペ(19歳)、パバール(22歳)を輩出し、世界の王者になったフランスと比較しても新鮮味に欠けるドイツとなってしまった。

 ドイツブンデスリーガクラブの特徴は、それぞれの都市の市民クラブから成り立っている。各都市に総合スポーツセンターがあり、あらゆるスポーツの種目が行われている。子供から学生そしてシニアと、各年齢別、階層ごとにクラブを形成しているのだ。

 例えば10歳のフットボールクラブに30人登録しているとすると、ジュニアはA15人、B15人とレベルに合わせて区別され、毎年その評価で、ジュニア―ジュニアユース―ユースと上級クラスへ上がって行ける仕組みを取っている。

 プロのクラブは、その年の市民クラブの頂点に立っているのだ。市民による市民のためのクラブが基本なのだ。

 従いブンデスリーガのトップクラブ、バイエルン・ミュンヘンでさえその経営基盤は、ミュンヘンの市民クラブなのである。従いフットボール以外にもバスケット、バレー、いわばオリンピック種目をすべてカバーする総合スポーツクラブとなっている。

 そしてブンデスリーガでは、このスポーツクラブの経営権の制度を通称『50+1』ルールとし規制している。つまりクラブの経営権(持ち株)は、総合市民クラブ(クラブのメンバー)が51%以上を保有し、外部資本のMaxは、49%以下に抑えている仕組みである。Non Profitable Organization(NPO)なのである。利益が出ればそれはクラブに属し、いわゆる株主配当等の利益処分はできない組織なのである。

 例えばイングランドのクラブは、ドイツ的なスポーツクラブではなく、Private Limited Company(私的株式会社)の経営方式を取っている。従いトップクラブは株式上場しており、株の取引は世界規模で行われている。プレミアリーグクラブのほとんどがアメリカ、ロシア、アラブ、中国アジア系など外国資本で占められている。そのため資本が優先し、世界中からトップ選手を獲得し世界一の規模のリーグとなっていることはご承知の通りであるが、ドイツでは制度的に外部に開放していない。

 ただし、1998年の規約改定以降、元々ブンデスリーガに所属していた、例えばバイエル・レバークーゼンのように、バイエル(製薬会社)のスポーツクラブから発展したクラブは特例が認められ、バイエル社が株を保有している。現在、この株式を51%以上企業が保有しているクラブはRBライプチッヒ、1899ホッヘンハイム、そしてフォルクスワーゲン社のクラブ、Vfl ヴォルフスブルグの4クラブだけである。

 もちろん各市民クラブとはいえ、バイエルン・ミュンヘンのようなビッグクラブの売上高は、昨年度6.4億ユーロ(830億円)にも上り、利益も39百万ユーロ(50億円)を計上している。その資金を持って、世界から選手を獲得し、その強さを保っている。しかし経営は51%の市民メンバーが握っており、外国資本が入り込む余地は無い。

 果たして、ドイツ的市民スポーツクラブ運営で世界のトップに返り咲き出来るのか、若手育成選手を生み出せるのか、現在の代表チームの現状を踏まえて、今一度この制度を見直す必要もあるのではという議論が始まっている。

 外国資本による活性化、それによる競争力強化、ひいてはナショナルチームの強化と若手選手の育成に寄与するのか、市民による市民のためのスポーツを表示し、その中で世界一を復活させられるのか、ドイツの今後の生き方を見守りたい。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
伊藤 庸夫