サッカーアラカルチョ

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ヨーロッパサッカー回廊『ビデオレフリー!!』

17・05・11
 左サイドからのクロスボール、ゴールラインの上空を高く飛んだボールが落ちた地点に待ち構えたセンターフォワードのシュートはGKにブロックされたが、詰めていた選手が難なく、タップイン。GOAL!!

 1−0でリードと思いきや、副審がフラッグをあげていた。主審はボールが一度ゴールライン外側に出てから、インに入ってきたとしてゴールキックの判定。

 4月23日のFAカップ準決勝アーセナル対マンチェスターシティの試合の出来事である。

 この試合はホーム、アーセナルにとって負ければ今シーズン無冠で終わり、監督ベンゲルの立場は更迭の憂き目にあうかの一戦であり、シティにとっても監督ペップ・グアルディオラが、バルサ、バイエルン・ミュンヘンでの優勝経験監督として昨シーズン赴任し、負ければベンゲルと同じく無冠に終わることになり、両監督にとってはシーズンのハイライトの試合であった。

 結果、アーセナルが延長の末2−1と勝利を収め、決勝に駒を進めたのである。このシティのクロスからのゴールが認められていたら異なる結果になっていたことだろう。

 この試合を生放映していたBBCはリプレーをビデオで表示した。その場面は果たしてゴールラインを割っていたのか、割っていなかったのかは微妙なところであった。しかし翌日の新聞では、高いクロスボールはゴールラインを割ることなく線上からゴール前に落ち、詰めたアグエロのシュートをアーセナルGKチェフがブロックしたかに見えたが、確かにゴールラインを割っていた写真を発表。明らかにゴールであった。

 副審のミスと主審のミスが重なったミスであった。しかし簡単にミスと言えるのであろうか。

 副審はタッチラインを走りながら、クロスボールがゴールライン上(しかも上空3mはあるかと思われるループのボールである)にあるかないかを目測で決めなければならない。一瞬の正確な判断を主審と副審が物理的にできるのであろうか。

 しかし結果は結果である。主審の決定は最終決定である。アーセナルのベンゲル監督の首はつながった。シティのグアルディオラ監督は今シーズン無冠に終わった。明と暗である。

 2012年以来、ゴールライン・テクノロジーについては機械的にビデオでの検証ができるようにルールも改正された。しかしこのテクノロジーを使ったビデオ判定は、ワールドカップやクラブワールドカップのような世界大会では実施されているが、各国のリーグでは機材の設置等の技術的問題もあり実施されてはいない。

 ラグビー、テニスといったスポーツでは時間を取ってビデオ判定をすることが普通となった今、なぜフットボールはまだなのか。いまだに『Common Sense(良識)』での主審の裁量に任せていいものか。

 FIFAのインファンチーノ会長は、このような勝敗を左右する判定にはVideo Referees Technologyを採用すべきとし、2017/18年のシーズンから実施する方向を示唆している。

 ロシアW杯を見据えての話である。当然FIFA及びイングランド、スコットランド、ウエールズ、アイルランドの5者によるIFAB(国際サッカー評議会=規則を決める機関)の承認を得ての措置である。しかし、各国のリーグについてはそれぞれの国のFAの判断に任されているのは技術、コストの面から致し方ないのであろう。

 その中でも一早く導入を決めたのはポルトガル協会である。今年はポルトガルカップの決勝で試し、夏以降のシーズン(2017/18)にトップリーグでテストを行い翌年から実施するとしている。これに要する予算は約百万ユーロ(1.2億円)を充てるとしている。また、フランスでも今年のリーグ1とリーグ2とのプレーオフで試すとしている。ドイツも2017/18年よりAssistant Referee Systemとして採用することを決めている。

 やっとフットボール界にも、人間による『Common Sense』での判定から、機械による正確な判定へと動き出したようだ。このビデオ・レフェリング・テクノロジーを実施することによって、ゴールラインを割ったかどうか、ペナルティキックの判定、レッドカードが正当かどうか、ファールの誤認、そして主審、副審泣かせのオフサイド等の判定がクリア出来れば、フットボールも一段と公正な判定によって勝敗が決まるのでは―と期待されている。

 さて、日本はどうするのであろうか―


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)
伊藤 庸夫