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ヨーロッパサッカー回廊『ロシアを見据えて英国勢の戦い始まる』

16・09・11
 ついこの間の7月、ユーロが行われ、伏兵とも言うべきポルトガルが優勝。そして弱小国として大きな大会に出場したのは1958年以来というウェールズがセミファイナルまで進出、ベスト4に。

 アイスランドがイングランドを破りベスト8入り。北アイルランドもベスト16に入るというアンダードックの活躍がまだ冷めやらぬ欧州フットボール。この9月初め、2018年のロシアワールドカップを目指し厳しい予選が始まった。

 注目は何といってもイングランド。ユーロでは1−2のスコアでアイスランドに屈辱の敗退を喫し、ベスト8も逃したホジソン監督は更迭され、今まで一度も代表選手になったことがない、しかもトップクラスのクラブの監督経験もない『Big Sam』ことサム・アラダイスが予想を裏切って監督に就任。初戦は9月4日、先のユーロで0−0の引き分けとなったスロバキアとのアウエーでの戦い。言わば大国イングランドとしては絶対に負けられない一戦。

 アラダイス監督は、先のユーロでの平均年齢24歳という若いチームに色を付け平均25歳のチームを編成し備えた。

 中心はやはり29歳のルーニーに任せるしかないのか? アイスランドに負けたトラウマを継承してはいないか? ポゼッション重視のモメンタム(勢い)のなかったユーロに代わりカツを入れることができるのか? 正GKのMシティ、ジョー・ハートが新任のグアルディオラ監督から、「近代フットボールのGKはスイーパーも兼ねられるボール扱いのうまい選手でなければならぬ」と戦力外通知を受け、前日イタリアのトリノへ期限付き移籍(Loan)したばかりの精神的ショックを乗り越えられるのか? 逆にユーロでは一度も試合に出られなかったジョン・ストーンズ(22歳)は、リオ・ファーディナンド(元Mユナイテッド)以来の期待を受けてエバートンからMシティに50百万ポンドで移籍、果たしてセンターバックとしてインタ−ナショナルの試合に耐えられるか? などなどの多くの課題と期待をこめた一戦となった。

 やはり問題点は変わらなかった。バックから前線への攻めのスピードが安全第一のためか遅く、相手守備陣を固めさせ効果的な突破ができずじまい。ルーニーもシャドーストライカーとしてハリー・ケーンを助け得点を期待されたが、彼がプレーしたのはほとんど中盤、ある時はストーンズが前線に出ていく場面では何とバックに下がってしまった。

 これでは監督が期待したモメンタムのある速い攻撃から相手ディフェンスに時間とスペースを与えない狙いは外れ、50分経過、全くのダルゲーム(鈍い試合)となってしまった。転機は後半11分に来た。スロバキアのキャプテン、ディフェンスの要シュクルテルがハリー・ケーンとからみ足首を踏みつけ2枚目のイエローで退場。相手が10人となり、いつイングランドが点を取るのかにかかった試合となった。

 しかし同じパターンのイングランドはゴールをこじ開けることがなく終盤に入りアディショナルタイムは5分。また0−0の引き分けかとも思われた94分に左からローズのクロスに代表になって以来、得点から見放されていたララーナがシュート、これがGKに当たりゴールイン!1−0の勝利となった。

 イングランドとしては何とか一矢を報いた初戦となった。しかしルーニーの中盤は機能しなかった。シャドーに入るべき選手がいない。レスターのバーディーの出番はないのか、先発したウイング、スターリングのボールタッチの悪さ、そしてグアルディオラの指摘通り、GKハートの相手選手へのミスキックをみると、これからの戦いの難しさが露呈した試合であった。

 収穫はジョン・ストーンズがインターナショナルの試合に十分機能することが分かったことだろう。ただイングランドのグループFには、対戦したスロバキアと百年の宿敵スコットランドがいるが、2位以内の予選突破は確実であろう。

 スコットランドはマルタに5−1と快勝、ユーロに行けなかった鬱憤を晴らした初戦であり、これからも期待が持てそうである。

 一方、グループDのウェールズはモルドバと対戦、アーセナルのラムジーがけがで出場できなかったが、ユーロベスト4の実力通りガレス・ベールの大活躍で圧倒。前半にヴォークス、アレンが2点をもぎ取り後半51分にはベールが独走からGKとの1対1を制し、勝負を決める3点目。更に終了間際にベールがPKを決め2得点とし、4−0で快勝、実力の差をまざまざと見せつけた。

 ウェールズは監督コールマンがユーロ終了後、プレミアリーグのクラブから監督としての要請を断ってロシアW杯へウェールズを連れていきたいと留任した経緯もある。このグループにはオーストリア、セルビアの強敵がおり、アイルランドもユーロに引き続きW杯出場を狙っており息が抜けないグループである。しかし、ベールがけがをせず出場できる限りはチームワークもあり期待は大きい。

 アイルランドもセルビアとの初戦、前半1−0とリードして後半に入るも1−2と逆転されるが、80分に追いついて2−2の引き分けに終わった。アウエーでの勝ち点1は今後に期待ができる結果であった。

 そして北アイルランドも負けなかった。ユーロ16進出の余勢をかって、グループCでの初戦はチェコとアウエーで対戦0−0の引き分けに持ち込んだ。このグループには強豪ドイツがおり、2位でのプレーオフに持ち込めればW杯出場も可能である。そのドイツはノルウェーにアウエーで3−0と強豪振りを示した。

 スペインはグループG、初戦はFIFAランク182位のリヒテンシュタイン。8−0と貫禄を見せつけた。この組にはイタリアもおりイスラエルに3−1の勝利。このグループは強豪2チームの争いとなっている。

 番狂わせも起こった。スイスと対戦したユーロの覇者ポルトガルが思わぬ敗退を喫した。闘将クリスティアーノ・ロナウドがユーロで痛めたひざのけがが完治せず欠場したこともあり、0−2と完敗、前途多難の幕開けであった。

 準優勝のフランスもベラルーシと0−0の引き分けに終わり、今後の立ち直りに期待したい。

 来年の秋まで続くこの予選は各国のリーグ戦、ヨーロッパチャンピオンズリーグの合間を縫っての戦いはこれからではあるが、今のところフットボールのホームネーションズであるイングランド、ウェールズ、北アイルランド、スコットランドの4か国、そしてアイルランドがそろい踏みでロシアに行ける可能性もあり楽しみである。

 さて、英国のEU離脱決定後の動きは着々と進んでいるが、今のところフットボールへの影響は少ない。しかし2019年初めには離脱した英国が姿を現すことになる。そのとき確実なのはEU国籍の選手であっても、英国でのWork Permit(労働許可書)が必要となる。現在より確実に厳しい条件となることは必至である。

 日本人のVISA取得も年々厳しくなっており、よほど世界のトップ選手でなければ、はたまた日英政治経済環境が変わらない限り、Work Permitが取れなかった浅野のように英国でのプレーは難しくなることは確実である。フットボールも国際化し、時の政治、経済情勢によって左右されることになることも認識しておく必要がある。


◆筆者プロフィル◆
伊藤庸夫(いとうつねお)
東京都生まれ
浦和高校、京都大学、三菱重工(日本リーグ)でプレー、1980年より英国在住
1980−89:日本サッカー協会国際委員(英国在住)
  89−04:日本サッカー協会欧州代表
  94−96:サンフレッチェ広島強化国際部長
2004−06:びわこ成蹊スポーツ大学教授
  08    :JFL評議委員会議長(SAGAWA SHIGA FC GM)